「腹腔鏡下胆嚢摘出術」について

 腹腔鏡下胆嚢摘出術は1987年にフランスのMouretが世界で最初に行ったとされ、日本では山川達郎先生が1990年9月に初めて実施された手術手技で、従来の「外科手術」の概念を180度変えたと言っても過言ではありません。それ程に、その手術の方法や患者様の回復の早さなど発表当時は衝撃的なものでした。ドイツではこの方法が行われ始めた頃に、「この手術を行う場合には医師の資格を剥奪する」といった反応まであったと聞いています。まさに科学の世界での、新しい物が出てきた時に繰り返された反応そのものであったのかもしれません。そして過去の新技術がそうであったように、これまた科学の世界では当たり前なのですが、一度認められると瞬く間に世界中に広まり、今や胆石症の標準の手術術式となりました。その普及の早さもまた本法の優秀さを証明していると言えます。最近では、お腹の中のほとんどの手術を腹腔鏡下に行う試みがなされ、更には胸部や頚部、そして乳房にまでその応用範囲が広がりつつあります。

 当院では、1991年頃からこの手技に注目してはいましたが、やはり正直言って始めは『信じられない』、といった感想でした。しかし「時代の流れ」は否応なく流れていくもので、我々も見学や勉強に行くこととなり、1992年の春から本格的に取り組み、同年12月に第1例目を行いました。以来、この方法で手術をする患者様が確実に増えていき、今年中には300例を越える勢いです。ちょうど10年ですから毎年30人の方々に手術をさせていただいたことになります。当初は簡単な症例を対象にしていましたが、徐々に技術も向上し過去に手術を受けているような癒着のある場合にも本法で行えるようになってきています。また、総胆管結石を合併した場合にも、内視鏡で総胆管内の石を取り除く方法と組み合わせることで、お腹を大きく切り開かずに本法で行うこともできています。

 では、本法の内容を紹介しましょう。まず、麻酔ですが通常の全身麻酔で行います。従って、術前には胆嚢関係の検査に加えて、全身のチェックも行います。このため術前に3、4日間の入院期間を戴いております。

 手術は、まずお臍の上か下に2cm程度の皮膚切開を行い、さらにお腹の壁の筋肉を小さく開いて腹腔(お腹の中のスペース)に達します。この穴から直径1cmのトロッカーという筒状の道具を差し込み固定します。このトロッカーを介して二酸化炭素を腹腔に注入してお腹を膨らませ、お腹の中に隙間を作ります。さらにこのトロッカーの中を通して腹腔鏡を挿入します。これが術者の眼になります。つまりお腹の中の様子を外のテレビモニターに映し出すのです。この時に癒着があってお腹の中にある程度の隙間ができず目標である胆嚢が見えないと、手術自体が成立しません。もちろん癒着を切ってはずせれば手術続行です。どうしても無理な場合には、安全のために従来の方法に切り替えます。お腹の中が十分に見えるということになりますと、本法を続行します。さらに左脇腹に直径1cmのトロッカーを差し込み、みぞおちと右脇腹の2カ所には直径5mmの細いトロッカーを差し込みます。この3カ所のトロッカーから細長い把持鉗子(ピンセットの代わり)や電気メス、ハサミなどを挿入して胆嚢を切除していく訳です()。

通常、胆石の手術では胆嚢ごと切除します。胆嚢を残すと石が再発したり無石胆嚢炎を起こすことがあります。もともと「石」で痛いのではなく、「胆嚢炎」で痛むのですし、胆石と胆嚢癌合併のリスクも否定できないので、胆嚢を残さない方が良いわけです。

この手術では、通常の手術では血管や胆嚢管を絹糸で結んでから切るのですが、遠隔操作のために糸での結紮には大変時間が掛かることや不確実な場合があることから、クリップと呼ばれる特殊な金属で挟んで留めています。このことで、時間の短縮と確実な結紮が可能となっています。

 胆嚢を切り取った後、太い(1cm径)トロッカーを入れた傷のどちらかから胆嚢を体外に取り出します。時には石の方が傷よりも大きく、取り出すのが難しい事もあります。胆嚢を取りだした後、右脇腹の傷からドレーンという細い管を挿入して胆嚢を切除した後の部に入れておきます。これは術後のお腹の中の情報を知る手がかりとするためと、お腹の中に出る浸出液(火傷の時の水膨れの中の水のようなもの)を吸い出すために入れるもので、様子で術後1、2日目に抜きます。さらに各部からトロッカーを抜いて傷を縫って終了です

 手術時間は、通常で1時間前後です。最近は癒着があるものでも2時間以内で出来ています。麻酔に関して、3時間以上の麻酔となるとその弊害(麻酔薬による悪影響や麻酔から醒めるのが遅くなる)が出ると言われており、3時間以内で終えることを一つの目安としており、3時間以上かかる場合には状況で従来の方法に切り替えることにしています。

 この手術の大きな特徴のひとつであり、最大の特徴であるものに術後の回復が早いことが挙げられます。通常の手術では、術後2、3日間は胃液を抜くための管を鼻から胃まで入れたままにして置かねばなりません。もちろん食事もその管が抜けてから開始になります。お腹の傷も大きいために痛みも強い場合があり、痛み止めを頻回に使う必要に迫られることもあります。1週間後にやっと皮膚を縫った糸を抜き、徐々に食事を増やして、2、3週間後をメドに退院を考えていきます。これにひきかえ、本法では術直後あるいは遅くても次の日の朝には鼻の管を抜き歩行も開始します。そしてお昼には薄いお粥から食事が始まります。傷も小さく痛みも軽度です。傷に防水のシールを貼って術後3、4日目にはシャワーも可能で、術後4、5日目には患者様とご家族にご説明をして退院としています。傷の糸(最近はクリップというホッチキスのような小さな金属で皮膚を合わせています)は外来で抜いています。結果として10日間前後の入院で済み、通常の入院の2分の1以下となってきています。傷は小さいため、数ヶ月すると目立たなくなり、手術した私でさえカルテで確かめないと手術をしたことさえ気づかないことがあるほどにきれいに治ってしまいます。

 この方法は、胆嚢の炎症が少ないほどやりやすいわけで、極端な考え方の施設ではほとんど炎症がないと考えられる無症状の胆石も本法の対象として実施いる場合があります。しかし、当院ではあくまで手術が100%安全でない以上、何等かの症状が出てから手術を考えるという従来の「手術適応」を遵守しています。

今後とも研鑽を続けて胆石の患者様のお役に立ちたいと私たち寺田病院の職員一同頑張っております。私たち寺田病院はあなたの胆嚢の味方です。

当院の院長、副院長は「日本消化器外科学会指導医」の認定を戴いています。

以上、腹腔鏡下胆嚢摘出術についてでした。皆様の健康を願います。