大腸癌のお話

 大腸癌といいますと、一昔前は外人とくに白人の病気と言ったイメージが強いものでした。私が大学を卒業した20数年前頃では、大腸癌はまだまだ胃癌に比べてずっと少なく、従って内視鏡の分野でも胃の内視鏡からはその道具から技術に至るまで大きく遅れていたのが実情でした。実際、大腸の内視鏡検査の必要性を感じて勉強しようとしても、当時は病院に大腸用の内視鏡があればいい方で、その挿入方法を教えてくれる先生方も全国に数えるほどしかおられなかったと記憶しています。

 そうした大腸癌も今や胃癌と肩を並べるほどの存在となってきており、その増加に伴ってやはり患者様方の生命を脅かすものとなってきています。そして、データは少し古いのですが癌死亡に占める大腸癌による死亡が11.1%と全体の約10分の1を占めるに至っています。食道癌での死亡が3.3%ですからやはり重大な結果になる癌と言っていいでしょう。最近の当院での癌の手術症例数をみてみましても、ここ数年間は胃癌とほぼ同数の手術症例となってきています。

 大腸癌と言っても、やはり胃癌と同様に内視鏡で切除できる「切らなくて良い癌」と、手術で根治的な治療が可能な「切って治る癌」、手術だけでは根治が難しい「切っても治らない時期の癌」が あります。当院では胃癌と同様に患者様やご家族とご相談の上、それぞれの時期に応じたオーダーメイド治療を行っています。

 大腸癌の早期発見には大腸内視鏡検査の飛躍的な進歩が大きく貢献しています。大腸内視鏡検査の詳細は次の欄に譲りますが、内視鏡検査が簡単に行えるようになり(実際「胃カメラより楽だった」と言って下さる患者様も居られます)、癌が外まで広がっていない早い時期に見つけることが可能になっています。こうした中で「早期」と言える癌や、今は良性でも将来悪性化のリスクのあるポリープに対しては、内視鏡的切除術が行われます。こうした患者様は年々増加しており、私が当院に赴任した1987年には年間で15人程度であったものが昨年には151人まで増え、切り取った病変は15年間で2000個を数えるに至っています。今後ともこの数字は増えていく傾向にあります。なお、この場合の入院は3日間から4日間をお願いしています。

 一方、早期からさらに進んだ癌や、早期でも大きく内視鏡で切除すると出血や腸を破るリスクがある場合には、やはり手術が必要となります。この場合には、全身麻酔で行っています。術前検査を含めて4から5週間の入院をお願いしています。入院の際には「患者様用クリニカルパス」という簡単な日程表をお渡しして、入院中のスケジュールをあらかじめご説明しています。

 ここで当院の最近10年間の大腸癌手術症例249例での5年生存率を示します。
これは平均で毎年25人の大腸癌患者様を手術していることになりますが、実際には最近の毎年手術症例が増えており、ここ数年は胃癌と肩を並べる数になってきています。

5年生存率

初期 ステージ0 87.5%
中期 ステージⅠ 94.5%
ステージⅡ 79.7%
後期 ステージⅢa 65.0%
ステージⅢb 44.2%
ステージⅣ 0.0%
ALL 73.9%

 最後の数字は検討した全ての患者様での成績です。つまり、大腸癌で手術を受けた患者様の4人に3人の方々が手術後5年以上健康に生活しておられるわけです。これは、癌以外でお亡くなりになった方々も含めたデータですので、癌に限るとさらに良い成績になると思われ、各癌治療施設と比較しても遜色のないものと自負しています。


 以上、「大腸癌のお話」でした。皆様の健康を願います。